昨日ニュースで、とある外国の政府が緻密な計画を支援し、政府の最高機密の通信や情報を得ようとしていることが報道された。詳細には未だ不明な点があるが、この動きが全てのアメリカ国民にとって不安の種となることは明らかである。
ニューヨークタイムズのデービッド・サンガー(David Sanger)は以下のようにこの状況を要約した。
「トランプ政権は日曜日、外国政府に代わって活動しているハッカー―連邦や民間の専門家によると、ほぼ間違いなくロシアの諜報機関とされる―が、財務省や商務省を含め、政府の主要ネットワークに侵入し、そのEメールシステムに自由にアクセスしていたと認めた。
政府関係者は、過去5年間で最も巧妙な、そして恐らく最大規模と見られる今回の政府システムへの攻撃によって政府が受けた影響について更なる捜査が行われていると述べた。複数の政府関係者によると、国防関連機関も標的にされたが、これらシステムに極秘情報が含まれていたかは不明である。」
サンガーはその後、今回のサイバー攻撃が、検出されるまで数ヶ月間進行していた可能性があることを説明した。
「今回の問題に詳しい二人の人物は、諜報機関や財務省に対する攻撃の動機は不明だと述べた。政府関係者の一人は、今回の攻撃の影響や情報の損失規模を伝えるには早すぎると述べたが、複数の企業関係者によると、今回の攻撃は早ければ今年春頃には行われており、パンデミックや選挙期間があった数ヶ月の間露見することがなかったという。」
この展開を見ていると、2020年9月に読んだ非常に詳細な調査報道が思い出される。その報道はフィンセン文書と題され、ジェーソン・レオポルド(Jason Leopold)とBuzzFeed Newsの同僚によってまとめられた。この過激な記事は以下のように始まる。
「大量の政府の機密文書によって初めて、どのようにして西洋銀行業の巨人が疑わしい取引で何兆ドルものカネを動かし、彼ら自身、そして株主の私腹を肥やす傍ら、テロリスト、腐敗した政治家、麻薬の大物の活動を手助けしているかが明らかになる。
そして米政府は、強大な力を持ちながらも、阻止することに失敗した。」
これは多くの人にとって完全な驚きではないかも知れないが、この先は更に決定的である。
「金融犯罪を阻止することが目的の法律がむしろそれを助長している。銀行は、犯罪を助長している可能性がある旨を記した通知を提出する限り、役員も含め、刑事訴追から免責されるも同然だ。不審な活動の通知をすることで、銀行はカネを動かし、料金を集め続けるための事実上のフリーパスを得ることが出来る。
金融犯罪取締ネットワーク、フィンセンは、マネーロンダリング、テロリスト資金、その他金融犯罪に対抗することを任務とする財務省内の機関である。同機関は、SARとして知られる不審活動レポートを何百万と集めている。同機関は、米国の法執行機関や各国の金融諜報機関に収集したレポートを受け渡している。同機関は「収監泥棒政治」という、ロシア大統領ウラジミール・プーチンなどの外国指導者の取引関係をまとめるレポートも作成している。」
つまり、米財務省、米商務省もしくはフィンセンのいずれについて話しているにしても、米政府が、悪意のある人間にとって賞品になるようなデータのハニーポットを作っているということが強烈に明らかになってくる。
思考プロセスはこのようになる。政府組織は、犯罪を阻止もしくは解決するために、人や組織に関するデータを何十億と集めている。問題は彼らが情報の収集に関しては素晴らしい成果を上げているが、不法行為の大部分を阻止することに関してはあまり良い成果を上げていないということである。実際、政府はあまりにも大量のデータを集めているがゆえに、有用ではなくむしろ無用になっているという主張も容易く出来るだろう。
国際金融協会とデロイトLLPはこの問題について以下を含むホワイトペーパーを書いている。
「SAR(不審活動レポート)制度が金融機関、法執行機関のいずれにも課題を提示していることは当然のことである。SARによる法執行機関への開示内容の相当数が、限定的な情報価値しか持たないという評価をされるもの、また、質の悪いものである。犯罪行為の捜査の改善に寄与しない質の低いレポートを大量に処理することは、既に不足している資金情報機関のリソースが分散されることなり、また法執行機関の成果を出すことには繋がり得ない。」
少し考えて欲しい。金融機関やその他国家に加えて、米政府は質の高い情報が大量の質の低い情報に埋もれているために、見つけ出すことが難しくなるほど多くの情報を集めてきているのである。考えてみれば恐ろしいことだ。
さて、読者の多くはなぜ私がサイバー攻撃や不信活動レポートを取り上げているのか不思議に思っていることだろう。
これらの互いに繋がりあった状況は、米財務省が「自己ホスト型暗号通貨ウォレットや金融機関もしくは金融サービスによって提供されたものではないウォレット―ハードウェアウォレットやユーザーのコンピューター上で実行されるウォレットなどがその例である―が関わる取引において、受取人と差出人の身元を確認することを金融機関」に義務付ける規則を作成しようとしているという最近の噂と直接関係している。
この法案が採択されれば世界中の政府は更に多くのデータを収集するようになるが、不法行為の阻止に関しては少しも進歩しない。こう信じる者は私だけに限らない。司法省刑事局で資産差し押さえマネーロンダリング課(The Asset Forfeiture and Money Laundering Section)課長、そしてバンクオブアメリカ・メリルリンチでAMLコンプライアンスGlobal Head、キャピタルワンで全社的リスクマネジメント主任を歴任してきたJai Ramaswamyは、Coin Centerのオプ・エドで以下のように述べている。
「個人的な暗号通貨取引は、現金の利点と電子決済の利便性を併せ持ちながらも、現金の物理的制約や、電子決済につきまとうリスクコントロールを伴わないように思われる。これをもって、アンホステッド・ウォレットは世界中に展開しているインターネットによって強化された個人のスイス銀行口座のようなものであると説明する者もいる。これは、過去50年間にわたってFATFが世界的な基準を作成して対処しようとしてきたのと全く同じ脅威である。政策立案者は、これらツールの効果が既に疑問視されている状況でこのような分散型プロトコルが成熟することにより、金融仲介者のない未来が訪れ、法執行機関が持つ、非合法の金融ネットワークを特定、起訴、もしくは混乱させる能力が大幅に制限されることを危惧している。
しかし、この逆―個人的な暗号通貨取引が抱える非合法金融のリスクは一般に信じられているよりも低い―が真実であると信じるに値する強力な理由がある。アンホステッド・ウォレットはスイス銀行口座というよりも個人の財布に近く、暗号資産は現金とは違い法定通貨ではないため、実際の経済では財・サービスの取引においていまだ普遍的に受け入れられているわけではない。ハイパーインフレや重度の平価切り下げなど、暗号資産が特定の地域でこれら性質のうちいくつかを持つことになるような例外的な状況や、非合法の財・サービスが暗号資産で価格設定され、支払われる「ダークネット」市場といったものはあるが、これらが卸売りや世界規模での消費者行動の変化に繋がる可能性は低い。現実的に考えると、非合法の者であっても―正当な企業や個人と同じように―基本的なニーズを満たし、運営していくためには、最終的に暗号資産と現地の不換紙幣を交換しなければならない。理論的には暗号資産がこの目的を満たすことは想像できるが、そのような未来は今のところ不確定で遠い。広く普及し、流動性の高い不換紙幣への換金なしにオーガニックグロースを達成するという課題に日々取り組んでいる、暗号資産プロジェクトをローンチしている起業家にとってこの現実は自明である。実際、過去10年間で他の暗号資産が成長してきたことに加えて、不換紙幣に担保されたステーブルコインの市場シェアが増えているにも関わらず、ビットコインが市場を席巻し続けている重要な理由の一つは、規制の行き届いた仲介者を通して不換紙幣に容易に換金することが出来るという点である。」
Ramaswamyはその後以下のように述べ、論点を要約した。
「おそらく一番重要なことは、政策立案者が分散型ブロックチェーンプロトコルの隆盛を促している技術的な変化と折り合いを付けなければならないということだろう。その変化はインターネットの構造を一変させ、ネットワークにおけるコミュニケーションと価値の決済との区別を崩壊させ、特に金融包摂を推し進める上で、私たちの金融サービスに対する考え方を一部再構築する可能性を秘めている。これらは主として金融のイノベーションに繋がる技術的進歩であり、その展開や使用を禁止または制限しようとしている政策立案者は、潮の満ち引きを阻止することの不毛さに関してクヌート王の警告に耳を傾けるのが賢明であろう。冷静にこの技術を検討してみると、なぜそのような努力が失敗に終わることが決まっているのか、またなぜ非合法の金融活動を発見し、混乱させるための努力を増進させるのではなく、減退させることに繋がるのかがわかる。」
一目見ただけでは非直感的に思われるかも知れないが、合衆国とその他の国々はビットコインや暗号通貨の取引を規制したいという衝動に抗った方が良い。数億人の人間の金融プライバシーを大幅に侵害しながら、可能な限りの情報を集めることに有効性がないことは既にわかっている。更に、政府は悪質な敵対者に盗まれる可能性の高い情報の蜜壺を作るだけである。
不法行為の阻止とセキュリティシアターの実践にはバランスが必要だ。空港での運輸保安庁の活動にはそれほど効果がないことが証明されているように、従来の組織によるKYCやAMLの実践は不十分である。それよりも私たちの政府はこの技術を進んで利用し、私たちが最も大きい利益を得られるようにイノベーションを推し進め、金融包摂を実現することが出来る環境を作るために業界の指導者と密接に取り組みつつ、悪意のある行為を抑止することに注力するべきである。
力と影響力、そして正しいことをやる勇気を併せ持った人間がいることを願おう。良い一週間を願っている。また明日。
-Pomp-
OffTheChainジャパン
翻訳者ペンネーム:Decryptor