先週末、アメリカ救助策(American Rescue Package)が合衆国上院で僅差で可決された。1兆9000億ドルの刺激策は、現在もCOVIDに端を発する経済危機によって苦しんでいる市民への救世主だとされているが、同刺激策は実際には全体として負の影響をもたらすだろう。
話を始める前に、1兆9000億ドルの使い道に関する報道を簡単にまとめておこう。
給付金:収入が75000ドル未満の個人、収入が150000ドル未満の夫婦は1人あたり1400ドルの直接給付金を受け取る。扶養家族に対しても1人あたり1400ドルが支給される。
失業手当の追加:12月に可決された前回の刺激策の際に発行された毎週300ドルの連邦補助金を含め、失業手当が9月初旬まで延長される。
未成年税額控除:2021中、現在17歳以下の子供一人につき2000ドルまでとなっている未成年の税額控除が一時的に拡大される。新法案の下では、5歳までの子供一人につき最大3600ドル、6歳から17歳の子供一人につき最大3000ドルの控除となる。
地方自治体:州、地方、領土、部族政府に3500億ドルが支給される。これには学校に対する1300億ドルの給付金が含まれる。単科大学や大学、公共交通機関、住宅扶助、児童保育機関、食料援助への補助金なども含まれる。
中小企業:飲食店やライブ会場を含むビジネスに補助金が支給される。経営難に陥っている複数事業者型年金への救済も含まれる。
ワクチン:コロナウィルスの拡大を防ぎ、パンデミックを終息させるため、ワクチンや試験プログラムに1600億ドルが支給される。在留資格に関係なく、全米国民に無料でワクチンを提供する全国的なワクチン配布プログラムを立ち上げるための資金も含まれる。
1兆9000億ドルの同刺激策には他にも様々なものが含まれるが、これで概要の把握は出来るだろう。新政権は低中流階級の救世主として歓迎されている。中小企業に最低限の補助金を支給(飲食店、ライブ会場、その他小規模事業者に対し500億ドル以下)することで褒められている。私たちアメリカ国民は政府が貧困を軽減したと伝えられてさえいるのだ!
いや、そんなわけないだろう。ワシントンポストは先週末「バイデンの刺激策はアメリカ人にお金をばらまき、貧困を大幅に軽減し、企業よりも個人を優先する」と題された記事を公開した。このようなジャーナリストがまだ実施されてもいない刺激策によって貧困が軽減されたと知っているということが私には理解できない。彼らは未来を見通せるのだろう。
言うまでもなく誰にも未来を見通すことは出来ない。誰にもこの刺激策の影響を正確に把握することは出来ない。それが援助を最も必要とする人の助けになると主張する人もいる。また、最も低い社会経済的階層を不釣り合いに苦しめることになるインフレの拡大を引き起こすと信じている人もいる。
しかし、ワシントンポストのヘッドラインがただのプロパガンダであるということについては私たちは皆一様に理解することが出来るはずである。このようなジャーナリストは国家の拡声器と成り果てた。アメリカ人にお金をばらまく。貧困を大幅に軽減する。まるで第三世界の独裁者が市民に何も問題はないと告げようとしてこれらのヘッドラインを書いているようだ。
実際には新しい刺激策は給付金の受け取り資格を大きく制限するというのが真実だ。収入の上限は元々100000ドルだったが、20%引き下げられ80000ドルとなった。失業手当の追加は元々600ドルだったが、2020年の終わり頃あった引き延ばしで300ドルに引き下げられた。バイデン政権は毎週400ドルを提案したが、上院投票の数時間前に25%引き下げられた。
そのようなわけで、誇張的なヘッドラインがお金をばらまくとか貧困を軽減するという表現を含むのであれば、その対極として「バイデンの刺激策は破綻しかけている地方自治体や州政府を救済するために、援助の必要な者への補助金支給を差し控える」というものが考えられる。待って欲しい、どういうことだろうか。以下について考えてみよう。同刺激策は州、地方、領土政府に対する3600億ドルの給付金が含まれる。これはこの措置全体の資本のうちほぼ20%を占める。
3600億ドルはあまり大きいとは思われないかも知れないが、年収が75000ドル以下の1億7500万人にそれぞれ1400ドルの給付金を支給したとしたら、給付金の合計費用は2450億ドルになる。更に、失業中のアメリカ人1000万人に対する毎週300ドルの失業手当を考慮すると、地方、州政府ではなく国民に対する更なる給付金支給の前に毎週30億ドルの失業手当をほぼ10ヶ月間にわたって賄うことが出来る。
自宅で情報を追っている人のために説明すると、政府は、ジャーナリストが政府の援助の対象であると主張している実際の国民に対してよりも、経済活動を停止させた、財政難の地方、州政府を救済するためにより多くの金額を使っているということだ。国民ではなく政府に対してお金をばらまいているように思える。
貧困の軽減に関しては、個人貯蓄と貯蓄率(訳者注:原文ではincome rate=所得率?と書いてありますが、income rateについては画像のグラフから読み取れる内容ではないため、画像のsaving rate=貯蓄率と訳しました。恐らく書き間違いだと思います。)がパンデミック中に爆発的に上昇したことは疑いようがない。振り返ってみると、全国民がお金を受け取りはしたものの、外出することは出来なかった。そのお金を貯蓄する以外にそれほど出来ることがなかったのである。
この統計データは、パンデミックの後、全国民の収入が上がり、以前よりも豊かになったことを示唆する。しかし、私たちはデータをそのように解釈するべきではない。2020年9月のニューヨークタイムズによる、以前のデータを分析した記事の抜粋を以下に示す。
「月曜日に公開された連邦準備制度のデータによると、アメリカの家庭は2016年から2019年の間に貯蓄を大幅に拡大したようだが、富の格差は依然として大きいままである。その上これはコロナウィルスのパンデミックが発生する前のことだ。
連邦準備制度による消費者の経済状況調査(Survey of Consumer Finances)は、自己資本の中央値がその3年間で18%上昇し、家庭収入の中央値が5%上昇したと示した。1989年に開始された同調査は3年ごとに公開され、家庭の経済状況に係る標準的なデータとなっている。同調査は、様々な人口層の貯蓄や株の所有など、多岐にわたる、最新かつ包括的なデータを供給する。
その数字が物語るのは、失業率を半世紀で最低の値まで押し下げ、最も収入の少ない者の賃金を改善させた、記録上最長となる米経済の成長がもたらした財産であるところの収入の増加や住宅価格の上昇に支えられた個人の経済状況の改善である。しかし、多くのアメリカ人の貯蓄は10年前の景気低迷期よりも少なく、貧富の隔たりは依然として大きいまま—上位1%の家庭が持つ財産は30年間でほぼ最大だった—であった。
2019年の調査で集められたデータのほとんど全てはコロナウィルス以前のものだ。経済学者は、パンデミックに関連した経済活動の停止により何百万人もの人々が職を失ったことで、改善傾向にあった恵まれない労働者(訳者注:disadvantaged worker; 退役軍人、高校またはそれと同等の課程を修了していない人、ホームレスなどを含む概念の様です)の環境が、最近の数ヶ月のうちに恐らく退歩に転じたとして懸念している。レストラン、ホテル、娯楽施設などで人と関わる機会の多い仕事をしている場合が多いマイノリティや教育水準の低い従業員が特にコロナ禍の影響を受けている。収入の低い者が最も大きい影響を受けているために、格差は拡大していく模様だ。
パンデミック以前と比べると、雇用は現在も大きく落ち込んでおり、多くの家庭が不安定な状況にある。株式指数が持ち直したことで家庭の経済状況は改善していくはずだ。しかしその恩恵の大部分を享受するのは裕福な者となるだろう。調査が示すところによると、アメリカ人のうち株を保有しているのはおよそ半数ほどでしかない。」
つまり、個人の収入や個人の貯蓄率の増加は富の格差が縮まっていることにはならないということである。実際、富の格差が縮小しているか拡大しているかということを示す唯一の指標は、投資可能な資産を持つアメリカ人の割合であると主張することも出来る。
アメリカにおける富の格差がどれほど酷いものかということが忘れられている。セントルイス連邦準備銀行によると、自己資本がマイナスの家庭1340万を含む、アメリカ人の下位50%は国内の富を1%しか保有していない。それら1300万の家庭にどれだけ給付金を送ろうとも、現在彼らの直面している大変な状況が改善することはない。給付金は助けにはなるが、しっかり真実と向き合おう。給付金が貧困を軽減することはない。
ではこの刺激策が下位50%のアメリカ人に全体として負の影響をもたらすと私が考える理由は何か。簡単に言うと、消費財と資産価格の両方の点で、インフレの負の影響が給付金と失業手当の利点を大きく上回るからである。
政府が貧困を軽減し、国民にお金をばらまいているというお抱えのストーリーが否定されると、学者、ミリオネアのブロガー、裕福なヘッジファンドは憤慨する。以下にこの問題についての一般的な見方を紹介しよう。
各社会経済的階層はそれぞれ違う水準のインフレを経験する。最も裕福な層は投資可能な資産を保有し、またインフレに最も影響される消費財を購入することが少ない。社会経済的に最も低い階層は投資可能な資産を一切持たず、また価格がインフレする消費財を購入することが多い。
公式のインフレデータは非常に不正確である。公式のデータによるとインフレ率は1.5%以下だが、Chapwood Indexによると市街によって7-12%、またShadow Statsによるとインフレ率は6%である。
これら規模の大きい刺激策が大量の流動性を流し込むことで、資産価格が大幅に上昇する(ゼロ金利もこれを大きく助長している)。
投資可能な資産を持つ者はより裕福になり、投資可能な資産を持たない者はより貧しくなる。
このようにシンプルな話なのである。歴史的な傾向として米ドルの購買力は損なわれてきているが、これら規模の大きい(現在では1年の合計で6兆ドルとなる)刺激策が問題を悪化させている。先述したように、上院がこの法案に対して積極的な投票をした時点で、政府は、下位40%のアメリカ人の経済状況を悪化させるかたわら、アメリカで最も裕福な者を更に裕福にさせることになった。
私は解決策を示さずに問題について語ることはしたくない。それは不公平で不誠実だと感じる。では、どうすればこの問題を解決できるだろうか。
まず初めに、小規模事業、失業者、今回の経済危機によって経済的に苦しんでいる者が援助されなければならない。それは紙幣を増刷し、経済に流し込むことではなく、政府予算を粗悪な投資から優れた投資に再配分することで成されるべきだ。米政府は毎年邪悪とも言える金額を無駄にしている。国防から助成金に至るまで、何千億ドルというカネを困窮している者に再配分することが出来る。
そのような行動が困難であると主張する人がいることはわかっている。当然そうであろう。しかし、何かが難しいということはそれをするべきでないということではない。政治家は何ヶ月も今回の刺激策に取り組んできた。それは再配分の戦略を考えるのに充分な時間だっただろう。
次に、私たちの国における経済に関する教育が抜本的に改革されなければならない。経済に関する教育の欠如は国家の危機として理解されなければならない。ちょうどワクチンを大急ぎで導入しようとしているように、ドルの購買力が低下していること、投資可能な資産を保有することの価値、財産の大半を貯蓄することは負け戦略だということについて、市民に大急ぎで教育を施すべきだ。これによって市民は経済的な状況を改善するために必要な道具を得ることが出来る。
最後に、私たちは最も重要なことをひたすら最優先にするべきである。政府を救済したいか、それとも国民を助けたいか、どちらだろうか。航空会社のような運営の下手な企業を救済したいか、それとも個人を救済したいか、どちらだろうか。ロックダウンによる自由権の侵害を支援するか、それとも起業家や事業主がその最も得意とすること—問題解決—を果たすことを支援するか、どちらだろうか。
現状は期待外れである。政府は私たちの経済をむちゃくちゃにし、私たちの社会で最も脆弱な者の経済状況を悪化させ、更には不十分な解決策を提示し始めている。それは火事を起こしたあと、消防士の風を装って消火しようとしている様なものだ。
紙幣を増刷することでこの問題は解決しない。むしろ、問題は悪化する。主流派のメディアは批判しない。なぜならメディアは私たちの国家の拡声器となったからだ。ウォール街のヘッジファンドはそれを批判しない。なぜならこの馬鹿げたことで更に裕福になるからだ。この責任は彼らではなく独立の思想家にかかっている。
ウォール街に反対意見を述べる人間は残っていない。金融界に反対意見を述べる人間は残っていない。彼らは皆従順な羊だ。彼らはプロパガンダによって強制的に与えられる情報を摂取し、忠実にそれを繰り返す。お金をばらまく。貧困を軽減する。インフレはない。政府は善。ビットコインは悪。
それは最早戯画的でさえある。私は不愉快であっても真実を伝えることを読者のあなたに対して約束する。私はビットコインにかなりの投資をしてきた。ビットコインは結局大勝を得ることになると私は信じている。つまり、刺激策に関して起きていることから私は大きな利益を得ることになるということだ。そうであるからと言って私は政府が正しい行いをしているとは思わないし、政府のしていることが助けを誰よりも必要としている者のためになるとも思わない。
しかし、私は何が起こっているか、結末がどうなるかということを認識しているし、この狂気から自身を経済的に守れるようにするだけでなく、それが利益に繋がるようにしてきた。読者にはそれぞれ自分で学び、自分が最良だと思うことをする能力があるだろう。誰かが救ってくれるのを待ってはならない。誰も救いに来ない。自分で調べなければならない。自分で考えよう。一つの考え方に固執しないように気をつけよう。多様な情報を摂取し、多様な結論を得よう。
良い一週間のスタートを切れたことを祈る。また明日。
-Pomp-
OffTheChainジャパン
翻訳者ペンネーム:Decryptor