物事は変われば変わるほど同じ状態を保ち続ける。私は、新しく大きなイノベーションを起こそうとしている起業家や、まだ知られていない市場機会にアルファを見出そうとしている投資家や、誰も理解仕切っていない形で世界が変化しているということを説明している個人などといつも話をしている。
そのような話は非常に面白い。私は未来の見通しを立てることが出来る。どのようなテクノロジーが開発されているのか。人や企業の日常的な活動にどのような変化がもたらされるのか。投資家がどのように考えているのか。資本の流れがどのように変わるのか。日常的には、あまりにも多すぎるくらいだ。イノベーションの多さに対して時間が少なすぎる。
しかしそれは本当だろうか。
近頃私は長期的な思考を巡らせることが多い。俯瞰しているとも言えるだろうか。元々の状況はどのようなものだったか。今何が起こっているのか。そしてそれが将来にどのような影響を持つか。これらの疑問に唯一の正解はない。しかし、私が知っている一連の事実に関する、私の個人的な解釈の仕方をそこに見ることが出来る。
しかし、以前にも増して私は、過去数十年間で変わったことはほんの少しだという結論に至ることが多くなっている。以下にその具体例を一部列挙する。
イノベーション:この一連の作業は知的資本の活動と動きによって行われる。エンジニア、起業家、投資家が一定期間に、ある業界の発展に一斉に取り組み始めると、その業界は素晴らしい進展を遂げる。イノベーションのサイクルは同じような軌跡を辿る。早期導入者と後期導入者がある。一時的な好況と不況が繰り返される。興奮と落胆がある。イノベーションを見つける一番簡単な方法は、才能がある人について行くことである。
投資アルファ:優秀な投資家はいつも非対称性を求めている。一方的なリスクリターンは、テクノロジーやイノベーションのトレンドを大衆よりも先に見抜くことで得られる。他の人が価値がないと考えているところに適切に自分の資本を配分をしなければならない。他の人と違うことをしてもそれが間違っていれば、それはただ愚かなだけである。更に、とりわけ若い、知的な才能を持っている人についていくことで、イノベーションが起こる場所を特定することが容易になる。そしてイノベーションは巨大なリターンを生む。
資本の流れ:多くの投資家は市場を出し抜くことにあまりにも多くの時間を掛けているが、実際には、単純に資本の流れを動かす人間の心理が分かれば充分だ。インフレを例に取ってみよう。インフレが実際に起きているか否かということは重要ではない。インフレ不安があると資本はインフレヘッジ資産へと流れ込む。大衆よりも先に資本を動かせば、資本の大部分が流れ込んだ時にリターンを確保することが出来る。依然、様々な資産の価格変動を引き起こす主な要因は市場心理である。
上記した三点は、今回のケースがこれまでとほとんど変わらないということを明らかにするために私が使っている簡単な例だ。確かに、テクノロジーは違う。参加者のうちいくらかも違う。しかし、企業の設立や資本の投資に関する基本的な原則は変わっていない。
この主張の正しさは、ビル・フアン(Bill Hwang)とArchegos Capital Managementの不運な出来事によって示される。先週の出来事を知らない人のために言っておくと、ビルは数十億ドルの資産を持っていた、とても尊敬されている投資家だ。しかし今、彼はほとんど何も持っていない。CNBCによると、以下のようなことが起きたそうだ。
「Archegosは米メディア関連銘柄であるViacomCBSやディスカバリーに加え、バイドゥ、テンセント、Vipshopを含む、いくつかの中国インターネットADRに大規模でレバレッジのかかった投資をしていた。ポジションの一部は、トータルリターンスワップと呼ばれるデリバティブの一種で保持されていた。トータルリターンスワップはポジションを公開することなく大規模でレバレッジのかかった投資をすることが出来るものだ。
モルガンスタンレーとJPモルガンを通してその週初め頃行われた、ViacomCBSによる30億ドルの株式公開が破綻したことに続き、この投資も傾き始めた。プライムブローカーがArchegosに代わってポジションを抜け急ぐというドミノ効果を生じさせたことで、巨大なマージンコールに繋がった。」
ビル・フアンは数十億ドルを失った。野村やクレディ・スイスといった大金融機関も数十億ドルを失った。正直に言って、これは金融大虐殺と同じようなものだ。ではこれは私の、何も違わないという主張とどう関係しているのか。好景気の時であっても、リスク管理の不足と大きすぎるレバレッジの使用は致命的になり得る。このような出来事は大昔からあることだ。
私は、非常に心躍る現在の発展について考えるうちに、長期的な視点で世界を見つめることの大切さを教えてくれるある一冊の本を思い出した。マーク・スピッツネーゲル(Mark Spitznagel)著「The Dao of Capital(資本の道)」である。以下にお気に入りの引用をいくつか並べてみようと思う。
「どのような論理的主張やどのような経験によっても、支出と信用拡大による救済を信じる者たちの、最早宗教的とも言える情熱を揺るがす可能性に期待するべきではない。」—ミーゼス
「経済の全容はある一つの教訓に還元することが出来、その教訓はまたある一文に還元することが出来る。つまり、経済学の術は、あらゆる行為もしくは政策の、単なる即時的な影響ではなく、その長期的な影響を考慮することを主眼に置く。」—ヘンリー・ハズリット
「ミーゼスの見解全体の根底には、市場価格、その内在的な主観性—認識、ニーズ、好み、我慢の無さから生まれる主観性—に係る、基本的な秩序の無さが横たわっている。」—スピッツネーゲル
「文明は高度に構成された資本の蓄積によって発展するが、この資本が極端なボラティリティや破壊に際して成長することはない。むしろ、資本主義は安定性と同時に資源の自由で競争的な移動を求める。」—スピッツネーゲル
自由市場と競争はイノベーションを生む。イノベーションは進歩を生む。進歩はリターンを生む。リターンは更なる投資を生む。これが金融市場のサイクルである。これが道である。しかし、物事は変われば変わるほど、同じ状態を保ち続ける。
私たちは毎日の変化に囚われやすい。時々俯瞰してみよう。私たちが何十年にも続くゲームをプレイしていることを忘れないで。目標はただ今日、今週、今月、また今年勝つことではない。本当のプレイヤーは、いつまでも生き残ることが出来れば有利になれることを知っている。
長期的な思考を持つ者が主導権を握っている。それには心の知性と自律が必要だが、自分の目標に近づくことが出来る、ほんの少しのことに集中し続けることが出来れば、成功の可能性はある。そして最終的に、私たちが望むことが出来るのは成功の可能性だけだ。
良い一日を。また明日。
-Pomp-
OffTheChainジャパン
翻訳者ペンネーム:Decryptor